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転勤があるのは日本だけ?時代に応じた多様な働き方の変化とは?
2020.10.21
日本で長く浸透してきた転勤制度。転居を伴う転勤は、本人だけでなく家族にも影響を及ぼすため、大きな負担となる場合もあります。近年日本では、そんな転勤制度が疑問視されるようになってきました。この記事では、日本に転勤制度が定着した背景や転勤のないアメリカの人事制度、また、現代の働き方の変化についてご紹介します。
日本で転勤が当たり前とされる理由
転勤は日本独特の制度です。戦後の高度成長期に、企業が拠点を広げるため一定数の社員を全国各地へ行かせる必要がありました。そこで、転勤制度が定着したと言われています。それと同時に、企業はある地域の事業所を閉鎖しても、別の事業所へ異動させられる人事権を持っていました。勤務していた事業所が無くなったからといって解雇されることなく雇用し続けてもらえる、これは社員にとってもメリットがあります。
転勤を含むジョブローテーションによってキャリアを積みつつ、終身雇用制度で雇用を保証するというのが日本企業の制度でした。しかし、近年の日本では、その終身雇用制度が崩壊しつつあります。2019年には大手自動車メーカートヨタ自動車の社長でさえ「終身雇用を守っていくのは難しい」と発言し、大きな波紋を呼びました。社員にとってメリットであった終身雇用が保証されないのであれば、企業と社員のwin-winであった関係は崩れてしまい、転勤自体に疑問を投げかける人が増えてきています。
転勤は個々の人生に大きな影響を与えるため、転勤を機に転職を検討する人もいるでしょう。そんな現代、改めて日本の転勤制度について考えてみる必要があります。海外を見渡してみると、転勤が当たり前でないことがよくわかるでしょう。たとえば、会社命令の転勤がないアメリカの例を見てみましょう。
アメリカの転勤は希望者のみ
日本では、転勤命令があれば原則として転勤しなければなりませんが、アメリカでは企業が主導する転勤事例はほとんどありません。なぜ両国でこれほどまで大きな違いがあるのでしょうか。それは、雇用形態の違いにあります。日本では、職種や勤務地を限定せずに採用する「メンバーシップ型雇用制度」がとられてきました。会社に命じられたポジション、勤務地で臨機応変に定年退職まで働くというスタイルです。
一方アメリカでは、雇用時点で職務内容や勤務地が限定された「ジョブ型雇用制度」を採用しています。勤務地を決めて雇用するため、転勤がありません。転勤という話になるのであれば、社員と再度契約を結び直す必要があるでしょう。仮に、部署やポジションに空きが出た場合には社内で人員を募集する告知が出され、希望者のみ手を挙げる仕組みになっています。そこで異動が決まった場合は、転居を伴うケースもあります。しかし、あくまでも希望に基づく制度のため、企業側が一方的に命令する日本の人事異動とは異なります。これはとても良い仕組みのように思えますが、メリットだけではありません。会社命令による転勤がないアメリカでは、勤務していた事業所が閉鎖するなど人材として不要になった場合には、簡単に解雇される可能性があります。また、成果・能力主義が根付いているため、雇用環境がシビアであると言われています。
このように、両国の雇用形態それぞれにメリット、デメリットがあるでしょう。しかし、日本の終身雇用制度が崩壊しつつある現代、従来のメンバーシップ型雇用制度は成り立たなくなってきており、社員の考え方や働き方に変化が生じつつあります。次の章では、どのように変わってきているのか、具体例を踏まえてご紹介します。
多様な働き方が認められ、日本の転勤の在り方も変化している
近年日本では、ライフプランを重視する人が増えてきており、転勤に対して疑問視する声があがっています。その背景には、前の章で解説した終身雇用制度の崩壊に加え、女性の社会進出が進み共働きの社員が増えたこと、また、中高年層でも親の介護の課題に直面する社員が増えていることなどがあるでしょう。企業側もそういった声を受け止め、希望者のみの転勤や社員の事情を考慮した人事異動ができるよう、制度を改良しつつあります。
例えば損保大手「AIG損害保険」では、2019年から本人の望まない転勤の廃止を目指した制度の運用を始めました。「転勤しても良い(転勤あり)」「希望の勤務地のみで働きたい(転勤なし)」の2択で社員にアンケートをとったところ、転勤なしを希望した社員は7割にのぼりました。このことから、多くの社員が転勤のない働き方を希望していることがわかります。社員の希望に合わせた異動は、企業側には困難が伴うでしょう。AIG損害保険でも人事担当者は「調整には苦労した」と答えています。しかし、2020年時点で、転勤なし希望者のうち希望エリアに異動できた合致率は92%を超えていると言います。他の企業でもこのような取り組みを参考にしつつ、転勤や人事の在り方を再検討していく必要があるでしょう。
まとめ
これまで日本では転勤のある働き方が当たり前とされてきました。しかし、海外ではそうではありません。例えばアメリカでは、会社都合による転勤はなく、希望者のみとなっています。ライフプランが重視され始めた現代、日本でもアメリカのような人事制度が受け入れられ始めました。転勤を希望しない社員は、勤務地を限定して働いてもらうといった制度を取り入れている企業もあります。今後は、時代に応じてそのような取り組みを行う企業が増えてくることでしょう。必要最低限の転勤に留めるために、転勤がどのような目的で行われているのか、その目的は転勤でしか果たせないのか、今一度見直す必要があります。滅私奉公と言われるような働き方ではなく、個々人の生活を最優先した働き方を企業も社員も共に考えていく必要があるでしょう。